移住者インタビュー

LIFE STYLE 芦屋町

先人たちの想いが息づく芦屋釜に魅せられ、金沢から遠く離れた芦屋町へ。周囲に支えられながら、技術習得に日々奮闘!

移住者DATA

ターン

堀内 快さん

Profile
堀内 快さん(26歳)
Work

「芦屋釜の里」工房業務従事者

石川県金沢市出身。富山県高岡市の大学と大学院で美術鋳物について学び、2020年に芦屋町が支援する工房業務従事者として「芦屋釜の里」に就職。芦屋町が誇る茶の湯釜・芦屋釜を復興させるため、釜作りの技術習得や伝承に励んでいる。

茶釜の技法を研究しながら、時間をかけて製作。伝統とじっくり向き合う環境は、とても魅力的でした。

Q. 芦屋町に移住するまでの経緯を教えてください。

大学で鋳造について学んでいたので、将来はその知識を活かせる仕事に就けたらいいなと考えていました。大学院1年目の時に偶然「芦屋釜の里」のことを知り、夏休みの旅行を利用してどのような施設なのか見学してみようと。大量生産するのではなく、史実に基づきながら技法を研究し、その技法によって何ヶ月もかけて制作する芦屋釜※1はとても新鮮でした。さらに、600年ほども前の職人がどのような気持ちで釜を作っていたのか?なぜこのような形にしたのだろうか?など、いろいろと想像を膨らませていくうちにワクワクしてきました。

とはいえ、その時点ではまだ「芦屋釜の里」に就職するとは思ってもいませんでした。通っていた大学のある富山県高岡市は鋳造業が盛んなので、そちらでの就職を視野に入れていたんです。ところがその後、今の職場の先輩から「工房業務従事者※2の公募があるので応募してみませんか?」とお誘いをいただきました。もともと文化財の研究をしたいという気持ちがありましたし、伝統を重んじ、貴重な資料が身近にあるという「芦屋釜の里」の恵まれた製作環境は、全国的に見てもなかなかないと思い、応募することを決意。無事に採用試験に合格して、2020年の春からこちらで働いています。地元の金沢市からかなり離れてしまうため、最初は親も寂しそうにしていました。しかし、芦屋釜という伝統のある茶の湯釜に携わるということもあり、最終的には喜んで送り出してくれました。

※1:芦屋釜…14世紀半ば頃から現在の福岡県遠賀郡芦屋町中ノ浜付近で作られていた鋳鉄製の茶の湯釜。9点ある国指定重要文化財の茶の湯釜のうち、8点を芦屋釜が占める。
詳細は「芦屋釜の里」のホームページを参照。
https://www.town.ashiya.lg.jp/site/ashiyagama/

※2:工房業務従事者…「芦屋釜」の復興・鋳造技術の継承のために、芦屋町が支援する鋳物師の技術者。

堀内さんが勤務する「芦屋釜の里」。美しい日本庭園の中に芦屋釜の復興工房や資料館、茶室があります。
「芦屋釜の里」に併設された資料館にて。芦屋釜の歴史や製作工程が、展示物やビデオで紹介されています。

Q. 移住するにあたって準備したことはありますか?

実は、2〜3月は修士論文の作成に追われていまして…。準備らしい準備ができずに、引越しはバタバタでした。親から譲り受けた車に、本と服、寝袋という必要最小限の荷物を積んで、金沢市から12時間以上かけて芦屋町に移動。布団がなかったので、最初の1週間くらいは寝袋で寝ていました(笑)。幸運だったのは、「芦屋釜の里」の先輩方がすごく親切だったということです。事前に不動産会社を仲介してもらっていたので、アパート探しは苦労しませんでした。ほかにも、保険加入のアドバイスをしてもらったり自転車を貸してもらったりと、仕事だけでなくプライベートでも大変お世話になっています。

初めて会う人たちがフレンドリーに接してくれます。芦屋町に来てから、人の温もりに触れる頻度が増えました。

Q. 移住してからの芦屋町の印象を教えてください。

ここではまだ春と初夏しか経験していませんが、これまで住んできた所と比べて、季節の感じ方に違いがあるなと思いました。「芦屋釜の里」にある雑木林は常緑樹が多く、引っ越してきた3月でも葉がついた状態。故郷では落葉樹が多く、その時期なら葉がもう落ちているはずだったので、なんだか新鮮でしたね。また、芦屋町の地形が大学時代に住んでいた高岡市に似ていることにも驚きました。どちらも大きな河口沿いにあり、港町の雰囲気が漂っていて居酒屋も多い。縁もゆかりもない土地ですが、すぐに親近感が湧きました。

Q. 移住してよかったことは何ですか?

日常生活の中で、町のみなさんの温かさに触れられることです。引っ越してすぐの頃に、職場の先輩から近所のお弁当屋さんを紹介してもらったのですが、スタッフの方がとても親切なんですよ。「若者がこんな所まで一人でやって来て」と気にかけてくれ、今でもよくしていただいています。よく行く居酒屋では、たまたま居合わせたお客さんがフレンドリーに話しかけてくれます。「なぜ芦屋まで来たの?」と興味を持ってくれて、そこから会話が広がっていくのですぐに場に溶け込むことができます。金沢市や高岡市の方も優しかったですが、芦屋町に来てから人の温もりに触れる頻度がさらに増えました。

Q. 移住するにあたり不安だったことや、現在の生活面で大変なことはありますか?

アパートの近くに航空自衛隊の基地があるため、騒音の不安がありましたが、実際に住んでみると平気でした。それどころか、ベランダから飛行機が飛んでいる様子を見て楽しんでいます(笑)。また周辺には、スーパーなど生活に必要なお店がそろっているので便利です。駅までは少し距離がありますが、車があればまったく問題ありません。車だと福岡市まで1時間くらいで行くことができて快適ですよ。

Q. 移住してどんなことが変わりましたか?

目覚まし時計を使わなくても朝6時には起きるようになり、健康的な生活に変わりました。学生時代は急いで朝食をとって大学に行っていましたが、今では音楽を聴きながらお茶を飲むゆとりができました。近所を散歩する日もあり、黒松が並ぶ海沿いや昭和の香りが漂う裏路地など、芦屋町ならではの雰囲気に癒されています。朝の時間を充実させることで気持ちに余裕が生まれ、仕事にも集中できています。

Q. 休日はどのように過ごしていますか?

よく行く場所は、「洞山」と呼ばれる岩山の周辺です。「芦屋歴史の里」※3のスタッフの方から教えてもらったのですが、なんと、江戸時代に座礁した船から流れ出た伊万里焼の破片が、海岸に打ち上げられているというのです。気になって引き潮の時に行ってみたのですが、本当に破片が見つかって感動しました。今でもよく探しに出かけていて、コレクションも増えてきました。

美術館巡りも楽しみの一つです。福岡県には文化施設が多く、九州国立博物館や福岡市立美術館といった素晴らしい美術館がたくさんあります。本州ではなかなかお目にかかれない中世の東洋美術も鑑賞できるんですよ。また、最近は弓道場に通い始めました。高校と大学時代に弓道をしていたのですが、そのことを職場の先輩に話したら、アパートの近所に弓道場があることを教えてもらったんです。さっそく利用してみたのですが、久しぶりすぎて筋肉痛になりました(笑)。今後はコンスタントに通いたいと思っています。

※3:芦屋歴史の里…遠賀川河口の港町として発展した、芦屋町の歴史を紹介する施設。考古資料や農耕具、商業・交易関係品など約6000点を収蔵。
https://www.town.ashiya.lg.jp/site/kanko/2363.html

「洞山」周辺の海岸で、伊万里焼の破片を探す堀内さん。「洞山」は、風化でできた大きな洞穴があることで有名。
海岸で拾った伊万里焼の陶片。

今までできなかった作業が少しずつ上達。自身の成長を感じながら仕事に取り組めています。

Q. 現在の仕事について教えてください。

鋳型作りに使う砂の大きさを振るいで分ける作業や、炭を割って細かくする作業など、先輩が茶の湯釜を作るための準備を担当しています。それと並行して、釜作りの技法を学んでいます。言葉ではなく、手の感覚で覚えないといけない工程がたくさんあるので大変ですね。例えば、鋳型は砂と粘土と水を混ぜて作るのですが、粘土の分量は数値が決まっているわけではなく、砂と粘土を混ぜたものを手を握った時の感覚で分量を判断しなければなりません。大学時代にも粘土に触る機会はあったのですが、種類が変わると感覚がまったく違ってきます。鋳型作りは、粘土の分量が重要なのでとても神経を使います。

黙々と「霰(あられ)」の模様を作る堀内さん。ひとつずつ等間隔で押し当てていく作業は、集中力が欠かせません。
鋳型を作るために必要な「型挽き」と呼ばれる作業の様子。挽き板を回しながら、土型が水を吸い込む前に粘土を型に付着させていきます。

Q. 仕事で、やりがいや嬉しさを感じるのはどんな時ですか?

まったくできなかった作業が、少しずつでも上達していると感じた時ですね。以前よりは鋳型をきれいに作れるようになったり、霰(あられ)の文様を等間隔に押せるようになったりと、成長を感じながら作業に取り組めています。工房業務従事者としての採用期間が9年なので、その間に釜作りや古い釜の修理方法、お寺の梵鐘といった釜以外の金工品の作り方も習得していきたいと思います。

Q. 仕事で苦労していることを教えてください。

正直に言うと、工房にクーラーがないことですね(笑)。粉塵がすごいので、設置しても故障してしまうんですよ。ただ、鋳物場はこういった環境が当たり前で、先輩方も汗を掻きながらずっと作業しています。これから本格的な火を使う作業が待っているので、弱音を吐かずに頑張ります!

地元の方がたくさん集まる場所に顔を出して、自分に興味を持ってもらうことが大切だと思います

Q. 福岡県の魅力を教えてください。

福岡県には陶芸の窯元が多くあるので、お店で器を見ているだけでもいろいろな種類があって楽しいです。また、北陸地方と違ってあまり雪が降らないので、スタッドレスタイヤに変える手間や費用が少ないのは助かります。一方、芦屋町は先ほどもお話ししたように人の温かさが魅力です。個人的には、海辺の風景も気に入っています。遠賀川を挟んで山鹿と芦屋のエリアに分かれるのですが、山鹿の海辺は岩場が多く、反対側の芦屋は砂浜が多いんです。そういった景色の違いを楽しみながら散歩してみると面白いですよ。景色といえば、目の前に響灘が広がる「夏井ヶ浜はまゆう公園」、夕日が美しい「なみかけ大橋」もおすすめです。たまにランニングをする遠賀川沿いは、夜になると河口ぜきに等間隔に設置されたライトが、水面に映ってきれいです。ほかにも魅力と言えば、魚が美味しいという点は外せません。アパートの近くにあるスーパーには、鯛、イカなどたくさんの新鮮な魚介類が並んでいます。

「夏井ヶ浜はまゆう公園」は、「恋人の聖地」としてカップルに人気。高台に建つ鐘は、堀内さんの先輩たちが製作したものだそう。
なみかけ大橋からの夕景。

Q. これからこの街で、どんなことに取り組んでいきたいですか?

芦屋釜は茶道の世界で特に格式高いものなので、その魅力をもっと広めていきたいです。「芦屋釜の里」に就職する時に、先輩から「芦屋町に来るなら骨を埋める気持ちで」と言われました。正直、最初は知らない土地だったので戸惑いはありましたが、今ではそのつもりでいます。まずは今年のうちに、釜を2口作るのが目標です。とはいえ、1口作るだけでも様々な工程があり、工程ごとに失敗している状況なんですけどね(笑)。ゆくゆくは芦屋の鋳物師として、地元の方に喜んでもらえるものを作れるようになりたいです。プライベートでは、芦屋町についてまだ知らないことが多いので、少しずつ魅力を発見して、楽しく暮らしていきたいです。

Q. 福岡県に移住を考えている人にメッセージをお願いします。

私が引っ越してきた時は、事前にスーパーやホームセンターといったお店がどこにあるかを調べていなかったので、住み始めていざ物が必要になった時に困りました。また、旅行をしたいと思って周りの方にアクセス方法を聞いたのですが、どのような鉄道会社があるのかすら把握していなかったので、いまいちピンと来なくて…。こうならないためにも移住前にマップをチェックして、地理や路線などの情報を把握しておくことをおすすめします。
新しい場所での生活が始まったら、地元の方が集まる場所に顔を出してみてはいかがでしょうか。私の場合、居酒屋が地元の方と交流できる貴重な場所になっています。方言が飛び交う温かな雰囲気の中でローカルな話題や情報を聞くことができ、有意義な時間を過ごせています。地域に馴染むには、まず自分のことに興味を持ってもらうことが大切だと思います。自分から積極的に輪の中に入り、たくさんの方とお話ししてみてください。

※当インタビューは、2020年7月22日に行われたものです。

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