移住者インタビュー

久山町 中山 淳平さん、嶋井 紀博さん

福岡市近郊にありながら手つかずの自然に囲まれた久山町へ。町の人、風景を記憶に残す写真館を始めました。

移住者DATA

Uターン

中山 淳平さん、嶋井 紀博さん

Profile
中山 淳平さん(39歳)
嶋井 紀博さん(38歳)
Work

淳平さん:カメラマン
紀博さん:カメラマン

中山さんは福岡市東区出身。学生時代は県内で過ごし、その後スノーボーダーとして関東や北海道、北陸など日本各地を転々とする。嶋井さんは福岡県香春町出身。大学進学を機に福岡市で暮らし、卒業後は映像と写真の仕事をしながら福岡市内や近郊で暮らす。二人はスノーボードを通して知り合い、2016年に共に久山町へ移住。2020年「ひさやま写真館」を立ち上げた。

近くにいながら、足を運ぶことが少なかった場所。新しい発見がたくさんあるのが面白い。

Q.移住のきっかけを教えてください。

嶋井さん:私は久山町で暮らす前は、志免町に住んでいました。もともと香春町出身で、一軒家に慣れていたので、アパート暮らしが性に合わず…。2人目の子どもができたこともあり、広い場所でのびのびと暮らしたいという思いから家を建てる場所を探していたんです。ちょうどいいタイミングで久山町に土地を見つけたので、移住を決めました。久山町は私の実家と妻の実家のちょうど中間くらいの場所にあり、行き来しやすいという点もよかったですね。

中山さん:私は当時、妻と結婚する前で、一緒に住むための場所を探していました。嶋井君が家を建てる話を聞いて、軽い気持ちで久山町の賃貸情報も見ていたら、いい物件が見つかって。当時の職場から近かったことや、嶋井君と同じようにお互いの実家からも行きやすい場所だということも久山町を選んだ理由です。当時からお互いの妻も仲がよかったので、すんなりと久山への移住が決まりました。

Q.移住に際して、不安に感じることはありましたか?

中山さん:出身は福岡市東区なので久山町は近いのですが、移住するまでに訪れたことがあまりなく…。

嶋井さん:私も実家に帰る時に通過する場所というくらいの印象でした。私が家を建てる場所は新しく開発中の一帯だったので地域の方たちになじめるかという不安はそんなになかったですね。

中山さん:私も不安は感じなかったです。日本各地で暮らしたことがあるので、初めての場所でも割とすぐに溶け込めるタイプというか。それよりも自然が好きなので、畑を耕したり、自給自足に近い生活ができるのではという期待の方が大きかったです。

嶋井さん:特に町の情報収集もしていなかったので、住んでから知ることが多かったです。

中山さん:東区から車で20分くらいなのに、知らないことがたくさんあります。それがまた面白いですね。

Q.ご家族の反応はいかがでしたか。

嶋井さん:妻からの反対はなかったです。その前に住んでいた志免町は同じ糟屋郡なのですが、人口密集率が高く、どこにいっても人が多い印象だったので、「久山は子どもをのびのびと育てられそう」と言っていました。ただ、福岡市の中心部の出身なので久山町の真っ暗な夜に驚いていました(笑)。

中山さん:私も反対はなかったです。妻も同じように日本各地で暮らした経験があり、自然に囲まれた生活が好きなので、久山は落ち着ける場所のようです。あとは近くに海があれば…といっても車で30分くらい走れば行けるのですが。

二人が写真や映像に残す久山町の人々や風景、文化。

Q.現在の仕事について教えてください。

中山さん:今はカメラマンが主な職業です。長く働いている福岡市のアウトドアショップに週1回程度出勤するほか、畑仕事もしています。移住する前は別の仕事をしていたのですが、嶋井君やほかのカメラマンにサポートしてもらったり、自分で勉強したりして撮影の技術を身に付けました。カメラの仕事をメインにするようになって5~6年くらいでしょうか。写真の世界に正解はないですし、毎回被写体が変わって新鮮な気持ちで撮影できるところに面白さを感じています。

嶋井さん:私は映像と写真、どちらも手がけるカメラマンです。大学卒業後に映像の会社に就職し、その後写真のカメラマンに師事して独立しました。映像の会社を辞めた時、中山君のスノーボードの撮影をしに行ったこともありましたね。現在は大学や企業の広報映像や教材用の映像などを撮影したり、雑誌やWEB媒体などの写真撮影などを中心に行っています。

中山さん:私は、以前は結婚式の撮影が多かったのですがコロナ禍でほとんどの仕事がなくなってしまい…。時間ができたので自然を守るための勉強をしていたところ、日々触れていた久山町の自然や文化について深く考えるようになりました。人々が集まる神社があり、正月の獅子舞や太鼓などの伝統芸能も盛ん。そういった久山町の一面を残すための仕事をしたいと思って嶋井君と一緒に2020年11月に「ひさやま写真館」を立ち上げました。主に家族写真を撮影したり、町の風景やイベントを撮影したりしています。まだまだ認知度が低いので、気軽に体験してもらえる撮影会も定期的に行っています。

嶋井さん:2021年の夏に伊野神社(伊野天照皇大神宮)のそばで行った撮影会は思いがけず多くの人が来てくださり、10日で250組、500人以上の撮影を行いました。それをきっかけに私たちの存在を知ってもらい、家族撮影などにも繋がっています。

中山さん:今は特定の活動場所を持たない“ノマド写真館”なのですが、いずれは古民家を改装したりして、人々が集まれるコミュニティの場所になるようなスタジオを作りたいですね。久山町にずっと住んでいる人、新しく入ってきた人、そのどちらもが交流できるような場所になればと思っています。そして町の人々、風景などの成長や移り変わりをずっと撮っていきたいですね。

九州のお伊勢さま”と呼ばれる伊野天照皇大神宮。神殿や建物の配置も伊勢神宮を模して作られている。
2021年の夏に「伊野天照皇大神宮」のそばで行った撮影会が大盛況。町内だけでなく福岡市からも多くの人が訪れた。
中山さんは移住をきっかけに、カメラマンへの道を進んだ。
写真に加え、映像撮影も行う嶋井さん。
「our sake」プロジェクトの仲間と。3反の田んぼで山田錦を育てた。

Q.そのほかにも地域で行っていることはありますか。

嶋井さん:「our sake」という久山町初の地酒プロジェクトに参加しています。久山町でイタリア野菜を栽培している「里山サポリ」の城戸さんと一緒に首羅山に登っていた時に「日本酒づくりをしたい」という話を聞き、私たちも参加することにしました。

中山さん:久山町はどこにでも蛍がいるほど水がきれいな土地です。米作りに欠かせない清らかな水を使って山田錦を作りました。

嶋井さん:田植えや草刈り、収穫などを経て、今は大川市「若波酒造」さんで仕込みをしている段階です。初めての日本酒造りなので仕上がりが楽しみですね。

水田の準備から収穫まで、酒米作りの一連の作業を手がける。

仕事の傍ら農業も手がけ、目指すは自給自足。家族が食べる米や野菜を作っています。

Q.実際に久山町に暮らしていかがですか?

嶋井さん:もともと福岡市の近郊に住んでいたので、生活に大きな変化はありません。仕事も移住前と変わらないですし。子どもを育てる環境としてもいいと思います。子どもが町ですれ違う知らない人にも「こんにちは」と挨拶をするのを見ると、いいなと思います。あとは、この自然を利用した遊びの施設ができたりすると子どもとでかけやすいかなと思います。

中山さん:自然そのままを楽しめる施設ができると面白いでしょうね。首羅山の散歩コースのように整備されると利用する人が増えそうです。そういう場所が増えるといいですね。私はまだ小さい子どもがいるのですが、コロナ禍前は、妻が子育て支援センターによく行っていました。同年代のお子さんをもつ親同士繋がることができるのは、私たちのような移住者にはうれしいです。

嶋井さん:それと、健康づくりに関しての取り組みにも驚きました。九州大学と連携して町民一人ひとりの健康状態を長年にわたって研究しているそうです。

中山さん:町を挙げた取り組みのようですね。そのおかげか、子どもの健康診断もしっかりとしてくれるので安心しています。

Q.休日はどのように過ごしていますか?

嶋井さん:さっきも出てきましたが、首羅山によく登ります。登山道が整備されて歩きやすいですよ。山頂からの夕陽がとてもきれいです。あとは、薪ストーブ用の薪割りとか…。木を伐っている人を道端で見かけたら声をかけて木を分けてもらうなどの交流ができるのも、自然に囲まれた場所ならではですね。あとは、中山君と一緒に畑仕事をするようになりました。パパ友の紹介で地元の方に畑を借りることができ、そこで季節ごとに野菜を育てています。

中山さん:私は畑に加えて、家族が食べるための米づくりも行っています。3人の仲間で2年目になりますね。天日干しで乾燥させたお米は本当においしいですよ。農業は始めたばかりですが、周囲の方に恵まれているので相談に乗ってもらったり、機械を借りたりできるのがとてもありがたいです。

鎌倉時代に350の坊があったといわれる山岳寺院の遺跡が発見された首羅山。
山頂付近からは見事な夕日を眺めることができる。

Q.暮らしていて不便に感じることはありますか。

中山さん:自然に囲まれた場所はどこもそうでしょうが、車がないと生活できないところです。路線バスやコミュニティバスはエリアや時間が限られますし、最寄りの駅は車で15分くらいの篠栗駅。なかなか公共の交通機関だけでは移動が難しいですね。

嶋井さん:今小学生の子どもが高校生になったら、どうやって学校に通うんだろうと思うことがあります。

中山さん:不便なところはありますが、だからこそ今の久山町が残っているんだと思います。バスも電車も便利な場所だったら町の姿は違っていたかもしれません。

嶋井さん:私たちは不便を楽しめる性質なので(笑)。都会に慣れている人はもっと不便に感じるところがあるかもしれませんね。

自分たちが望むライフスタイルに合った場所。狩猟や林業などの活動も行っていきたい。

Q.移住してよかったと思うことを教えてください。

嶋井さん:自分で食べるものは作るという、半分自給自足のような暮らしが送れることですね。

中山さん:私たちはこういう生活がしたいと思っていたので。自分たちの考えに合う場所に暮らせていることが幸せです。

嶋井さん:今の生活に満足していますが、もっといろんなことがしたいという気持ちもあります。山を守ることに興味があって、中山君と一緒に国が主催する林業就労支援講習にも参加しました。ただ山に入るには所有者の方との関係もあるので難しいですね。

中山さん:私は狩猟もしたいと思っています。わな免許を持っているのですが、やはり山に入るのが難しいので。もっと繋がりを作っていって実践したいですね。

Q.住んで気づいた久山町の魅力を教えてください。

嶋井さん:やはり自然が一番ですね。自給自足など、都会ではできないことが実現できるという点だと思います。そういう面に魅力を感じる人にはすごくいい場所なのではないでしょうか。

中山さん:私もやっぱり自然価値の高さに尽きます。それに加えて久山町は福岡市近郊の市や町のように発展しすぎていないので、何かを始めると注目されますし、そのポジションを取りあうことも少ないと思います。

嶋井さん:あとは、行政との距離が近いのもいいと思います。私たちの撮影会の時には町長も来てくれました。

中山さん:町長と話したいと思ったら、「じゃあ紹介するよ」と知り合いが言ってくれるくらいの距離感です(笑)。ほかの町ではなかなかないですよね。

Q.久山町に移住を考えている人にメッセージをお願いします。

嶋井さん:移住して感じたのは、やはり人間関係の大切さです。私たちも町の人と移住者を繫げてくれた存在の人に本当に助けられました。また、自ら地域になじむようにコミュニケーションを取るのも大切だと思います。

中山さん:久山町はのどかなイメージだと思うのですが、ちょっと車で移動すれば何でもそろいます。また、車を30分くらい走らせれば福岡市の天神に着くくらい便利な立地です。一番の魅力は豊かな自然だと思うので、暮らしに最も求めるものが「自然」という方にはすごくおすすめの場所です。

※当インタビューは、2022年1月24日に行われたものです。

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