Iターン
- Profile
- 舘林 愛さん(48歳)
- Work
-
イラストレーター、社会的企業 取締役
Q.移住のきっかけを教えてください。
現在、所属している「株式会社セカエル」の一員になるために北九州に移住しました。私は約17年間ニューヨークで暮らし、イラストレーターとして「ニューヨークタイムズ」などの新聞や書籍、雑誌、ポスターなどを中心にイラストを描いていました。ニューヨークは年々物価が上がり、住みづらくなってきたことや、日本に住む両親が高齢になってきたこともあり、帰国することに。帰国後は、東京のNGOに就職しました。
NGOで働くきっかけは、2015年に長崎の原爆被災者である故・谷口稜曄さんの体験を伝えるための絵本、「A Good Life in Hell」を出版したことです(翌2016年、日本語版「生きているかぎり語り続ける」を主婦の友社より出版)。谷口さんは原爆で背中に重度のやけどを負い、仰向けに寝ることができないほどの後遺症を抱えながら生涯を送った方。戦争が終わって長い時間が経っても大変な思いをして生きている人がいるのだということを知り、このことを日本出身の私がアメリカの地で伝えなければと思い、絵本を作りました。このような体験を機に、直接的に世の中に働きかけることができる仕事に興味が湧くようになり、東京にある難民支援やフェアトレード事業を行うNGOに就職しました。
NGOでは東ティモールのフェアレードコーヒーの流通を担当していて、その時に取引があったのが、現在所属している「株式会社セカエル」の代表・中村隆市さんが手がける会社「ウィンドファーム」でした。中村さんは1980年代から、フェアトレードなどを通じて世界中で発展途上国の支援や災害支援などを行っている真の活動家。その思いに惹かれ、興味があると伝えていたところ、中村さんとお会いすることができ、「新しく始める『セカエル』で働いてみませんか?」とお誘いいただき、移住を決めました。
Q.福岡で暮らすことへの不安はありませんでしたか。
移住するタイミングがコロナ禍の始まりの2020年の春で、実際に住む北九州市に下見に来ることができなかったことが少し不安でした。有楽町の東京交通会館にある「ふくおかよかとこ移住相談センター」に行って話を聞いたり、Google Earthで周辺の様子を見たりしながら想像したり…。前職も辞めていましたし「とりあえず行っちゃおう」という勢いでしたね。というのも、海外生活が長かったので、移住に対するハードルが低くなっていて(笑)。同じ日本ですし、「合わなければ帰ればいい」といった気持ちでした。
また、ニューヨークに住んでいた頃から、日本に帰ったら東京ではなく自然が豊かな九州か北海道に住みたいと思っていたんです。ニューヨークも都会でしたが、東京は比べものにならないくらい人が多くて。満員電車に乗って通勤するのがストレスになっていました。谷口さんの絵本を作っていた時に、何度か福岡経由で長崎を訪れていて、その時に暮らすのにいいスケールの街だと思ったのも福岡を選んだひとつの理由です。
Q.ご家族の反応はいかがでしたか。
両親は、私がアメリカに行った時点で離れて暮らすことには慣れているので、特に何も言われませんでした。距離があるとはいえ、国内ですしね。また、幼い頃に佐賀や下関で暮らしていた父は土地勘もあり、「九州はいいところだ」と言ってくれました。
Q.現在の仕事について教えてください。
北九州市若松区にある「株式会社セカエル」で働いています。先ほどお話しした中村さんが、これまで長年取り組んできた活動を若い世代に伝え、世の中を少しでもよくしていきたいという思いで2020年6月に設立した会社です。環境問題をはじめとする、社会問題を学びながら、それを解決するためのソーシャルビジネスに取り組んでいます。一般の会社では社員にあたる人が取締役となり、経営者の立場から仕事に関わるというのがユニークな点で、私も取締役の一人です。現在の主な業務は系列会社「ウィンドファーム」のカタログデザインや、フェアトレードのコーヒーやハーブティなどの商品パッケージのデザインなど。時々イラストも描いています。そのほか「セカエル」が行うオンライン講座の運営業務なども行っています。従来の制作活動は休んでいますが、環境問題や社会問題に触れることで感じたことを、将来的にアートという形でアウトプットしていきたいと思っています。
Q.普段の暮らしはどう変わりましたか。
これまでとは全く違う自然に囲まれた環境に身を置いているので、癒されていることを感じます。都会で暮らしていると、車で海に出かけて、交通渋滞にはまってイライラ…なんていうこともあったのですが、いまは海が目の前にあって波の音が生活の一部です。心も体も健康になっている気がしますね。休日も海や山に出かけて自然探索をしています。どこに行っても人が少ないのが最高です。東京では山の上でも行列ができていたりしますから。
また、ほとんど経験がなかった農業も始めました。会社で、社員自身も自給自足を経験してみようという取り組みがあり、畑を借りて野菜を育てています。最後に土を触ったのは幼稚園生の時というくらい農業に縁がなかったのですが、いま改めて楽しさを感じています。今年の夏に育てたレタスは、一度もスーパーで買うことがなかったほど十分な量が収穫できました。移住前から興味をもっていた「半農半X」というライフスタイルを少し体験できているような気がします。仲良くなったご近所の農家の方が、野菜をくださったりするのもうれしいですね。
Q.生活のなかで楽しみにしていることはありますか?
食が楽しいです。もともと魚が好きで関東でも食べていたのですが、道の駅や直売所はもちろん、スーパーに並ぶものでも種類の多さや新鮮さは比べものになりません。特にサバなどの青魚が好きなのですが、全然違いますね。もちろん関東でもおいしいものはあるのですが、安い値段で食べられるのはここならではだと思います。お醤油はまだ甘い九州のものに慣れず、東京のものを使っています(笑)。カフェ巡りも楽しいですね。古民家を改装した佇まいが素敵だったり、神社が近くにあって景色がきれいだったり、いいお店が多くて。あとはホタル観賞など、自然の中での遊びも楽しいです。また、北九州市や福岡市などの都会にも行きやすく、時々足をのばしては美術館などを訪れています。
もうひとつ、いま楽しいのは雑草を見ることです。都会にいた時には見えてこなかった自然の造形の面白さに魅了されています。自然のもつさまざまな形、豊かな色彩。そういうものにインスピレーションを感じる日々です。
Q.不便に感じることはありますか?
車の運転が必須という点です。運転免許は持っていたのですが、都会ではなかなか運転する機会がなくて。移住して1年半が経ち、ようやく慣れてきました。北九州や周辺の市町村なら車で出かけるのですが、福岡市に行く時などは電車に乗ってしまいます。そのほかの生活面では不便に感じることはほとんどありません。
Q.住んで気づいた福岡の魅力を教えてください。
いま住んでいる北九州市は都会的なものと自然的なものとのバランスがちょうどいいですね。普段は自然のなかで暮らし、月に1~2回都市部に出かけるという生活が気に入っています。また、仕事柄かもしれませんがユニークな人と出会えるのも魅力のひとつです。関東にいた頃は、田舎暮らしをする人や面白い取り組みを行う人の成功談を本や雑誌で読んで「たまたまラッキーな人では?」と思っていたのですが、福岡に来てそういった人がこんなにいるんだということに驚きました。のどかな場所に行けば家賃も安いし、スペースも広いので、アイデア次第でさまざまなことができそうですよね。豊かな移住暮らしの可能性を感じています。これからもまだまだ知り尽くしてない魅力を見つけていきたいですね。
Q.福岡に移住を考えている人にメッセージをお願いします。
個人的には全面的におすすめします。都会と自然のバランスがよく、移住先としてとてもいい場所だと思います。私のように都会から移住する人は、まず福岡市や北九州市の周辺に住んでみて、様子をみてみるのもいいかもしれません。食べ物がおいしいし、自然が豊かで気候も穏やか。地震が少ないのも安心感があります。小さなお子さんがいるファミリーや、これから何かを始めようとする人、いろんな方にマッチする場所だと思います。
※当インタビューは、2021年10月26日に行われたものです。
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