Iターン
- Profile
- 村井勇輝さん(36歳)、里美さん(38歳)
- Data
- 大阪出身の勇輝さんは、大阪、福岡、岡山で会社員として働いた後、2016年に香春町の地域おこし協力隊の1期生として採銅所に移住。移住希望者の案内役を務め、農業や登山などの自然体験を企画した。埼玉出身の里美さんは、2020年に香春町の移住体験に参加。他県の移住体験も経て、2022年から香春町で暮らし始めた。その後お二人は結婚し、体験型民泊「村井屋」を営む傍ら、動画制作やバリ舞踊の講師など、それぞれマルチに活動している。
- Work
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勇輝さん:民泊運営、動画制作、アウトドアイベント講師ほか
里美さん:民泊運営、バリ舞踊講師、バリ刺繍小物作家ほか

Q.移住のきっかけを教えてください。
勇輝さん:中学生の頃に大自然を舞台にしたドラマを観て以来、地域の人と関わりながら生活する田舎暮らしに憧れを抱いていました。老後には田舎でカフェを開くつもりでいましたが、移住のきっかけは思ったよりも早く訪れました。26歳の時、怪我で自宅療養していた際に、これまでの生き方を見つめ直すように。やりたいことをすべて書き出し、その中でもっとも現実的だったのが田舎暮らしでした。さっそく情報収集のために、各地の地域おこし協力隊や移住相談を行っている方に会いに行きました。そこで香春町が協力隊員を募集していることを教えていただき、2016年に香春町に移住しました。
里美さん:私はバリ島の踊りと大自然に魅せられて、2010年から3年間、舞踊留学をしていました。その後も毎年訪れていたのですが、コロナ禍で行けなくなってしまって。私の地元はいわゆるコンクリートジャングルなので、自然豊かな場所への思いは募る一方でした。そこで国内に目を向けてみたところ、以前訪れたことのあった屋久島の自然が目に浮かびました。同じ九州内であれば、移住しても埼玉に帰りやすいのでは。そう考え、インターネットで見つけた香春町の移住体験に申し込み、2020年の秋に参加しました。

Q.香春町の印象を教えてください。
勇輝さん:最初に香春駅を出た時に、街の雰囲気が地元に似ていると感じました。近くに香春岳がそびえ、その裾野に街が広がっている。その景色を見て、山の中腹にある中学校まで、徒歩で通っていた学生時代を思い出しました。
里美さん:空気が美味しくて山も近いので、田舎に来たのだと実感できました。それでいてスーパーや飲食店が揃っているので、住みやすそうだと感じました。また、地域の方がとても温かいという印象も受けました。移住体験中に農業体験をしたのですが、どなたも親切に教えてくださったんです。地元の美味しいお店にもよく連れて行ってくださり、おかげで48日の体験期間で体重が3キロ増えました(笑)。
Q.移住前にやっておいてよかったことはありますか?
勇輝さん:田舎暮らしについて、あらかじめ調べておいたことです。地域の方との距離感や畑を持った場合の作業負担などを把握しておいたので、理想と現実のギャップに困ることはほとんどありませんでした。
里美さん:夫の勧めで、香春町での移住体験後に、地域おこし協力隊としてほかの地域でも暮らしたことです。心の中に、ここよりもっと田舎の場所で暮らしてみたいという気持ちがあったんですよ。しかし、実際に移住してみると、自分にとって1人で生活するにはハードルが高いことを実感。結果的に、心残りなく香春町に戻ることができました。生活のしやすさ、そして無理をせず自然と馴染めたことが決め手になりました。
Q.日々の生活で楽しいと感じるのはどんな時ですか?
勇輝さん:豊かな自然環境の中で、日常生活を送ることです。転勤で岡山に住んでいた頃は、街の喧騒から離れたくて、よく山でキャンプをしていました。その時の静かで空が広く見えるという環境が、今の自宅周辺と似ているんですよ。まるで大きなテントの中で暮らしているようです(笑)。
里美さん:この辺りは、基本的に住民の車しか通らないんですよ。「今の鳥はいつも聞かない鳴き声だから渡り鳥かな」などと、小さな自然の営みに耳を傾けて暮らすことに幸せを感じています。

Q.移住してから変化を感じることはありますか?
里美さん:実家の家族から、「よく笑うようになったね」と言われます。静かな自然に囲まれて生活することで、自分では気づかないうちに心に余裕が生まれたようです。また、家庭菜園で野菜を育てるようになってから、旬の美味しさ、採れたての美味しさに気づきました。それまでは、スーパーで季節に関係なく欲しい野菜を買っていたんですよ。


Q.現在のお仕事について教えてください。
勇輝さん:古民家を改装して、民泊を運営しています。私たちの宿の一番の特徴は、食事に使う野菜を宿泊者自らが収穫するなど、田舎暮らしを体験できるということです。リピーターもいて、中には近所に家を購入して移住した方もいるんですよ。町と協力して移住体験の受け入れをしていたので、現在も移住相談ができる民泊として運営しています。
民泊経営とは別に、アウトドアイベントの講師や竹を使った作品作りなども行っています。また、1年半ほど前から動画の編集を始め、企業のPR動画や地域おこし協力隊募集の広告動画などを制作しています。編集技術はオンラインスクールで学び、仕事もすべてオンラインで受注。最初は求人サイトを活用し、徐々に紹介で案件を増やしていきました。近いうちに、自分で撮影もできるようになりたいと考えています。


里美さん:私は以前、町内のカフェでアルバイトをしていましたが、これまでの経験を活かしたいと思い、新たな仕事に挑戦することにしました。現在、埼玉に住んでいた時にも教えていたバリ舞踊のレッスンを、廃校になった採銅所小学校(コミュニティセンター採do所)で行っています。ほかにも、インドネシアの技能実習生を対象にした通訳や、バリ刺繍小物の製作もしています。


Q.どんな時にお仕事でやりがいを感じますか?
里美さん:バリ舞踊のレッスンに参加した方が、「こんな踊りがあるんだ」と笑顔で踊る姿を見ると嬉しくなります。また、民泊のお仕事では、宿泊した方が景色を眺めながら幸せそうにくつろいでいると、こちらまで幸せな気持ちになり、心がほっこりします。
勇輝さん:宿泊した方が、楽しそうに野菜の収穫やピザ作りをしていると本当に嬉しいですね。お客さんに楽しんでいただくだけでなく、自分たちも楽しみながら働くことができています。
Q.福岡県と香春町の魅力を教えてください。
勇輝さん:香春町は、手軽に自然を楽しめる街です。すぐに登れる山が多く、自宅の近くにも山頂まで30~40分で行ける障子ヶ岳があります。そこから朝日を眺めたり食事をしたりすると、最高に気持ちがいいんですよ。一方福岡県の魅力は、食材が新鮮でご飯が美味しいということ。毎日の3食で味わいを感じられるので、幸福度が増します。大阪の会社に勤めていた頃、周りの人たちが「福岡に転勤したら戻りたくなくなる」と言っていた気持ちがよくわかります(笑)。また、ワークライフバランスがよく、特に郊外や田舎は「静かな場所に住みたい。でも職場のある街中まで近い方がいい」というコンパクトな暮らしを求めている方におすすめです。
里美さん:香春町は“都市間田舎”と言われるように、北九州市と福岡市にアクセスしやすいのが魅力です。自然と街のバランスもちょうどよく、移住先を探すうえでの基準になると思います。田舎暮らしが初めての方にも、ぴったりではないでしょうか。また、地域の皆さんは情に厚く、恩返しの文化が根付いています。過去に自分がしてあげたことを覚えてくれていて、必ずお礼をしてくれるんですよ。

Q.これからこの街でどのように暮らしていきたいですか。
里美さん:移住探しの拠点として、気軽に利用できる宿にしていきたいです。また、通訳の仕事のように、インドネシアと福岡を繋ぐ活動ができたらいいですね。
勇輝さん:2人とも豊かな自然が好きなので、ゆくゆくはもう1軒、今よりもっと田舎の場所に拠点を構えることができたらいいなと思っています。とはいえ、せっかく多くの方と知り合い、みんなが集まる場所ができたので、香春町との関係はこれからもずっと大事にしたいです。
Q.福岡に移住を考えている人にメッセージをお願いします。
勇輝さん:自分のやりたいこととできること、自宅から街中までの理想的な距離を把握しておくとよいと思います。また、お店を始めたいと思っている方は、近所の方々と何回も顔を合わせて、関係性をしっかり築いておくことをおすすめします。そうすることで、何事にも理解を得やすくなり、困った時にも相談しやすくなるはずです。
里美さん:その土地が合うか合わないかは、人によって異なります。最初から候補地に移住するのではなく、私のようにほかの場所にお試し移住するのも一つの方法です。そうすることで、より自分に合った移住先を見つけやすくなると思いますよ。
※当インタビューは、2024年12月25日に行われたものです。