Iターン
- Profile
- キム・ユンスさん(46歳)、井植 麻里子さん(38歳)、井植 天翔くん(3歳)
- Work
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あまおう農家
Q.八女市に移住するまでの経緯を教えてください。
ユンスさん:移住前は東京、埼玉に住み、都内のゲーム関連の会社でデザインの仕事をしていました。しかし、コロナが発生して1年ほど経った頃に、勤めていた会社が倒産。ちょうど息子をコロナから守るため、人口密度の高い東京から離れたいという気持ちがあったので、これを機に移住しようということになりました。
麻里子さん:移住先は、夫の母国である韓国に近く、私が食に関心があるということで、福岡に決めました。姉が宮崎に移住しているので、同じ九州だという安心感も後押しになりました。そこから八女市に絞ったのは、農業に挑戦してみたいという夫の意向があったからです。
ユンスさん:漠然とですが、いずれ農業をやってみたいという思いがありました。子どもの頃から親戚の米農家の働く姿を見てきたので、その影響があったのかもしれません。とはいえまったくの素人なので、農業について学べる施設をインターネットで探しました。すると八女市に、就農支援センター※という研修施設を発見。さらに、八女市内にはあまおう農家が多く、ブランド力の高いあまおうは、ほかの果物より値段が下がりにくいということを知り、栽培してみたいと思うようになりました。
Q.移住に際して不安はありませんでしたか?
ユンスさん:就農支援センターの先輩方から「農業は頑張ったぶんだけ稼ぐことができる」と伺っていたので、生活していけるだろうかという心配は、それほどありませんでした。
麻里子さん:ただ、引っ越しがコロナの真っ最中だったので感染が心配でした。さらに、育児と並行して車の教習所に通い、生活のためにアルバイトをするなど、やるべきことがたくさんあり不安でした。しかし夫の協力もあり、うまく時間をやり繰りして乗り切ることができました。
Q.移住に対する親御さんの反応はいかがでしたか?
麻里子さん:移住することを初めて伝えた時は、やはり驚かれましたね。ただ、反対されることはなく、特に父親は自営業をしていたこともあり応援してくれました。
ユンスさん:私の場合は、知らない場所で未経験の農業を始めるということで、とても心配されました。親戚の農家を見ていたので、大変さがよく分かっていたのだと思います。それでも最終的には、「自分たちが決めたのであれば挑戦してみなさい」と背中を押してくれました。
Q.移住にあたり準備をしたことはありますか?
麻里子さん:東京の有楽町にある移住相談センターに行きました。 そこでは、住みやすさといった福岡県の魅力に加え、仕事を見つけることの重要性など現実的なことも教えてもらえました。おかげで、それまでぼんやりとしていた移住後の生活について、具体的に考えるようになりました。
ユンスさん:住宅は、移住前に就農支援センターに体験宿泊していた時に、不動産屋さんに行って探しました。1週間という限られた宿泊期間でしたが、運よく見つけることができました。まだ退去が出ていなかったので、仮押さえをして、あとで部屋の写真を見せてもらうことに。結果的に、近くにスーパーがあるなど、暮らしに不便のない場所に住むことができました。
Q.住み始めて感じた八女市の印象を教えてください。
麻里子さん:夫の体験宿泊中、私も後半の3日間くらい八女市に滞在したのですが、その時の印象がどこか寂しくて。というのも、雨がたくさん降っていて、ほとんど人を見かけなかったんです。逆に言うと、最初にその光景を見たことで、バカンスではなく農業をやるために移住するのだと、覚悟を決めることができました。そのぶん、住み始めてから素敵な部分をたくさん見つけることができています。何気ない田んぼや畑の風景も、晴れた日はのどかできれいなんですよ。「八女中央大茶園」の展望所から八女市内の絶景を眺めた時は、「なんて素敵な町なんだろう」としみじみ感じました。
Q.現在のお仕事について教えてください。
ユンスさん:今年の6月に就農し、農家の方から借りている畑であまおうを栽培しています。農業は、テレビで見るような楽しいだけの仕事ではありません。畑があってもすぐに栽培できるわけではなく、水分量など土の状態をしっかり把握して整える必要があります。もちろん道具をそろえないといけませんし、効率的に作業するための動線作りも欠かせません。先輩方も、1年目は特に苦労したと仰っていました。今のところ、順調と言ってよいのか分かりませんが、試行錯誤しながらやっていけています。
麻里子さん:私は移住前に栄養士をしていましたが、現在は夫の農作業を手伝っています。朝6時くらいに起床して、7時過ぎに保育園のバスが来るのでバタバタと息子を送り出し、その後2人そろって畑へ。夕方まで作業をして、遅くとも17時半には私が保育園に迎えに行き、夫は暗くなったら帰宅します。まだ農作業に慣れていないため、1日があっという間に過ぎます。
Q.移住に際して利用した制度はありますか?
ユンスさん:移住前に就農支援センターに体験宿泊し、ハウス栽培やイチゴの梱包作業を、移住後はそこで一年間研修し、基本的に朝8時から17時まで栽培作業を行いました。思いのほか、私よりも若い方がたくさんいて驚きました。ほかに、八女市が行っている就農準備支援※を活用して、生活費にあてています。しばらくは収入が不安定なので、とても助かっています。
Q.就農を考えている方にアドバイスをお願いします。
ユンスさん:農家になるということは、経営者になることでもあります。安定した経営を続けるために、お金の管理をしっかりしないといけません。就農支援センターでは、経営に関するカリキュラムが組まれているので安心です。ただ、いざ就農するとわからないことが出てくると思うので、その時は福岡県八女普及指導センター※を訪ねると親切に教えてもらえますよ。周りの協力を仰ぎながら、明るい未来を思い描いて頑張って欲しいですね。
Q.お仕事における今後の目標を教えてください。
麻里子さん:栄養士としての知識を活かして 、あまおうを使った商品を作ることができたらいいですね。八女市は地産地消に力を入れているので、地域おこし協力隊のように地元の方々と触れ合いながら、商品を通じてあまおうの魅力をアピールできたらと思います。
ユンスさん:収穫が11月中旬からなので、やりがいを感じるのはまさにこれからだと期待しています(2022年10月取材時点)。 一つずつ理解しながら経験を積み、今後新たに就農する方がいたら、アドバイスできるようになりたいですね。また現在、休憩所として畑の一角にユニットハウスを建てていますが、ゆくゆくは子ども部屋を作るなど、家族の暮らす環境も気にかけていきたいです。
Q.日々の生活のなかで、楽しいと感じるのはどのような時ですか?
ユンスさん:やはり家族と一緒に過ごす時間ですね。農業は、自分の予定や体調に合わせた働き方ができるので、可能な限り日曜日は休むようにしています。
麻里子さん:休みの日は、家族そろって近所の公園に出かけることが多いですね。八女市には、子どもをのびのびと遊ばせる場所がたくさんあるんですよ。滑り台がある「宮野公園」や大きなトランポリンがある「べんがら村」は、息子の大のお気に入りです。
Q.移住前と比べて変化したことを教えてください。
麻里子さん:車の免許を取得したことで、生活がかなり快適になりました。八女市は車が多くないので、運転しやすいのも助かります。関東では、山や川に遊びに行く時は電車を利用していましたが、ベビーカーがあると周囲に対する気苦労が絶えなくて。移住していなければ車に乗っていなかったと思うので、免許を取得するきっかけになってよかったです。
ユンスさん:忙しいながらも、家族と触れ合う時間が格段に増えました。妻と一緒に農作業を行うため、子育てや将来の生活などについて、じっくり話すことができています。また、コロナに対する束縛から少し解放されました。関東にいた頃は、満員電車の中で感染に怯えながら通勤する毎日でしたから。
Q.これからこの街で、どのように暮らしていきたいですか?
麻里子さん:交流の輪を広げたいです。子どものためにも、近所にママ友がいるとよいですね。現状では、保育園に息子を迎えに行っても、挨拶くらいしかできていないんですよ。
ユンスさん:本来であれば、会食など農家の方々が集まる機会があるそうなのですが、コロナの影響で行われていないんですよ。交流を深めることができる婦人会も、活動していない状況です。私自身も同業者との繋がりを強めたいので、早く再開してほしいですね。
Q.福岡県や八女市の魅力を教えてください。
ユンスさん:八女市に移住してつくづく感じるのは、人が優しいということです。就農支援センターでお世話になった先輩が定期的にアドバイスをくださるし、困った時に電話をするとすぐに駆けつけてくださいます。ご自身のことだけでもお忙しいはずなのに、なぜこんなに優しいのだろうと思うほど、親切にしてくださいます。本当にありがたいことです。
麻里子さん:福岡市には、妹と観光で訪れたことがあるのですが、餃子や焼き鳥など美味しいものがたくさんありとても魅力に感じました。また八女市は、遠出をしなくても川遊びなどで自然に親しむことができます。小さなお子さんがいるご家庭にもおすすめです。
Q.福岡県に移住を考えている人にメッセージをお願いします。
ユンスさん:インターネットで移住先の情報を検索しても、わからないことがあると思います。まずは、移住相談センターなど移住に関する窓口に相談してみてはいかがでしょうか。そして実際に、現地へ足を運んでみることをおすすめします。何日か滞在して、風景や人、お店などが自分に合っているかを確かめ、住民の方から話を聞くと参考になるはずです。
麻里子さん:インターネットだけでリサーチしすぎると、マイナスポイントが気になり、移住に対して消極的になってしまうかもしれません。あれこれ考えずに、まず行動を起こしてみることが大切です。仕事さえ目星がついていたら、思いきって移住してみるのも一つの手段だと思いますよ。
※当インタビューは、2022年10月5日に行われたものです。
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