移住者インタビュー

みやま市 久保 尚弥さん

気持ちに余裕が生まれ、何をしても楽しいし、
何気ない情景も美しいと感じられるように。
宮崎に住む息子も“故郷”として愛着が湧いているようです。

移住者DATA

Iターン

久保 尚弥さん

Profile
久保 尚弥さん(54歳)
Work

SUPインストラクター

神奈川県出身、みやま市在住。地元でSUPのインストラクターとして働いていたが、2021年3月、息子さんの大学進学を機にみやま市へ移住。市内の一軒家で、広島県出身の奥さん・美子さんと一緒に暮らしている。インストラクターとしてSUPの普及に努める一方で、タケノコ栽培など農作業にも挑戦中。

周りからは「なぜ神奈川から福岡に?」と驚かれました。でも同時に、「遊び先ができた」と喜ばれました(笑)。

Q.みやま市に移住するまでの経緯を教えてください。

以前から妻と、「歳をとったら暖かい田舎で暮らしたいね」と話していました。といっても、真剣に移住先を探していたわけではありません。転機となったのは、みやま市にある「筒井時正玩具花火製造所」のご夫婦との出会いです。妻がみやま市の友人から「素敵なお店があるよ」と紹介され、5年前に初めて訪れてみました。実際にお会いするととても面白いご夫婦で、私たちはすっかり意気投合。5年間で計5、6回くらいお店に足を運び、やがて妻からみやま市への移住を提案されました。ずっと海の近くに住み、大好きなサーフィンをしてきたので、戸惑いがなかったと言えば嘘になります。ただ、海が混雑してきたことでSUPを始めた経緯があり、海にこだわる必要がないのも事実。ちょうど息子が高校を卒業するタイミングだったので、今が最適だと思い移住を決意しました。

「筒井時正玩具花火製造所」のご夫婦とは、今でも家族ぐるみの付き合い。
「筒井時正玩具花火製造所」のご夫婦とは、今でも家族ぐるみの付き合い。
久保さんが撮影した夕空の写真。思わず足を止めて見入ってしまうほどの美しさ。
久保さんが撮影した夕空の写真。思わず足を止めて見入ってしまうほどの美しさ。

Q.初めて訪れた時のみやま市の印象を教えてください。

沈む夕日を見つめながら、「なんて素敵な場所なのだろう」としみじみ思いました。神奈川で見る、富士山や海岸線に沈む夕日も確かにきれいです。しかし、広大な田舎の原風景に沈む夕日には、それとは違う素朴な魅力がありましたね。それから人の温かさも身にしみて感じました。地元の方々とバーベキューをしたのですが、みなさん気さくな方ばかり。初対面にも関わらず好意的に受け入れてくださって、すぐに溶け込むことができました。

Q.移住に対する周囲の反応はいかがでしたか?

友人やSUP仲間からは、「なぜ行っちゃうの?」と驚かれました。とはいえ、「遠征で遊びに行く場所ができた」と喜んでいた節もありましたね(笑)。息子のママ友からも、「子どもを遊びに行かせるからよろしく」と好反応。みなさんにとって、福岡は食べ物が美味しいという印象が強いようで、関心を寄せてくれました。そして息子は「1人で関東に残るのは嫌だから」と、同じ九州の大学を受験。現在、一人暮らしをしながら宮崎県の大学に通っています。春にみやま市に遊びに来たのですが、金色の麦畑を眺めながら「来てよかった〜」と感慨に耽っていました。美しい自然のなかで家族とゆっくり過ごす時間が気に入ったようで、最後には「もう帰りたくない」なんて言い始めて(笑)。すでに“故郷”として愛着が湧いているようです。

Q.移住にあたり準備をしたことはありますか?

仕事柄、SUPができる土地かどうかは気になっていたので、周辺の川をチェックしました。その結果、最高の環境であると自信がもてました。いろいろな場所にスポットがあって、流れも穏やか。柳川市まで行けばお堀をぐるりと一周できるし、筑後市の筑後広域公園から矢部川を進めば、筑後市の溝口竈門神社まで行くこともできるんですよ。一方、準備で大変だったのは引っ越しです。ちょうど3月の本格的なシーズンで、さらにコロナの影響もあり、レンタカーを探すのにひと苦労。なんとか見つけられたものの、2トントラックしか手配できなかったため、積めない荷物は泣く泣く処分することにしました。

電気炊飯器ではなく土鍋でご飯を炊き、シャワーではなく湯船に浸かって疲れを癒す。スローライフを満喫しています。

Q.住み始めてからのみやま市の印象を教えてください。

みやま市は福岡県のほぼ南端に位置しているので、大分県の別府や湯布院など、いろいろな場所に日帰りで出かけられます。それに何と言っても、車で5分も走れば熊本県ですからね。実は最近、平山温泉にすごくいい湯を見つけたんですよ。下道を使っても30分とかからないので、週一くらいのペースで通っています。また、土地が広く、人が多すぎない点も気に入っています。先日、法事で神奈川に帰ったのですが、とにかく人が多くて…。車の渋滞を避けて電車で移動したのですが、車内は密集状態。もう都会には住めないと痛感しました。

Q.住む場所はどのようにして決めましたか?

「筒井時正玩具花火製造所」のご夫婦が、事前に候補となる家をいくつか探してくださいました。おかげで、5LDKの一軒家に住むことができました。庭が付いているので、現在、野菜の栽培に挑戦しているところです。都会と違って周りに家がないので、気楽なものですよ。また、間取りが3LDKから5LDKへと広くなったにも関わらず、家賃が神奈川の頃と比べて10万円以上下がり、駐車スペースまであります。これはもう、土地が広い田舎ならではの魅力ですね。こことは別に、庭に240坪くらいの畑が付いた古い空き家を購入することができたので、いずれ内装が整ったら引っ越すつもりです。

Q.移住前から変化したことを教えてください。

神奈川に住んでいた頃は、通勤に1時間ほどかかっていましたが、今は家の前の川が職場です(笑)。また、道の駅まで食材を買いに行くことが当たり前になった、というか、生産者の方からおすそ分けしていただくことも珍しくありません。通勤時のストレスがなくなり、食費と家賃が下がったことで、あくせくと働く必要がなくなりました。時間にゆとりができたため、電気炊飯器ではなく土鍋でご飯を炊き、シャワーではなく湯船に浸かって疲れを癒すという、スローライフを満喫しています。気持ちにも余裕が生まれ、小さなことが気にならなくなりました。妻が犬の散歩に行っている間に、朝食の支度をすることもよくあります。

奥さんの美子さんと一緒に。「移住して2人で出かける機会が増えました」と久保さん。
奥さんの美子さんと一緒に。「移住して2人で出かける機会が増えました」と久保さん。

Q.日々の生活のなかで、楽しいと感じるのはどのような時ですか?

気持ちに余裕が生まれたためか、今までまったく意識していなかった情景が、美しく感じられるようになりました。秋は稲穂が揺れ、そこに張られた蜘蛛の巣が陽に照らされて輝いている。冬の朝には、あたり一面に降った霜がキラキラと反射で輝いている。満月にしても、住宅や電線の合間から覗くのではなく、ほぼ何もない所に山と一緒に眺めるのは格別です。さらに、夕飯を作ったり仕事をしたりと、何をやっていても充実感があります。特に犬の散歩は、フレンチブルドッグという少し珍しい犬を飼っているので、すれ違う方々によく話しかけていただいて楽しいんですよ。

タケノコ掘りなどSUPの枠を超えた活動を通して、友達感覚で同じ時間を共有できるコミュニティを作りたい。

Q.現在のお仕事について教えてください。

SUPのスクールやツアーを行う「Country Side 98」を運営しています。SUPとは、ボードの上に立って、パドルを漕ぎ水面を進むウォーターアクティビティ。魅力は何と言っても、楽しみながら短時間で達成感を得られるということです。最初は「怖い!無理!」とボートの上に正座していた人が、15分後には立ち上がって喜びを爆発させるように。スクールが終わる90分後には、ほとんどの方がスイスイと進めるようになっています。みなさんが笑顔になった時、そして最後に「楽しかった」と言ってもらえた時は、大きなやりがいを感じます。場所や時間などの都合は極力合わせられますので、興味がある方は気軽にトライしてもらいたいですね。

川下りでおなじみの柳川のお堀で、SUPを楽しむ久保さん。
川下りでおなじみの柳川のお堀で、SUPを楽しむ久保さん。

Q.インストラクターのお仕事以外で活動されていることはありますか?

こちらに来てから知り合った方のご縁で、去年からミカンやビワの収穫を手伝っています。コロナで本業が思うようにできない状況なので、とてもありがたいお話です。最近は、タケノコの山の世話を任せていただけるようになりました。未経験なので苦労も多いですが、来年の収穫シーズンが待ち遠しいです。また、ミカンはみなさんと会話をしながら収穫するので、自分のことを知ってもらう良い機会になりました。ただ、飛び交う言葉はネイティブの八女弁。最初は「かせして(手伝って)」って何?「ふとか(大きい)」って何?と、わからない言葉のオンパレードでした。その場で意味を教えてもらえたので、“リスニング”に関しては妻に負けません(笑)。

ミカンを収穫する久保さん。「未経験ですが、とても楽しい」と笑顔をこぼす。
ミカンを収穫する久保さん。「未経験ですが、とても楽しい」と笑顔をこぼす。
10時と15時は、みんなそろってのお茶の時間。手作りの漬物などが振る舞われる。
10時と15時は、みんなそろってのお茶の時間。手作りの漬物などが振る舞われる。

Q.これからこの街で、どのように暮らしていきたいですか?

SUPの魅力を、多くの方に広めていきたいです。もう少しコロナが落ち着いてきたら、体験事業を行う予定です。理想は、早朝でも仕事が終わってからでもいいので、毎日誰か常連さんが来て漕いでいる状態。朝の体操や夕日を見る感覚で、気軽にSUPを楽しんでもらいたいです。そしていずれは、タケノコ掘りやミカン狩りなどSUPの枠を超えた活動を通して、友達のように同じ時間を共有できるコミュニティを作ることができたら最高ですね。

気になる移住先があったら、何度か足を運ぶこと。あらかじめ人脈を築いておくと安心ですよ。

Q.福岡県の魅力を教えてください。

福岡は、野菜も魚も抜群に新鮮。以前は料理をする際に、ソースをたくさん混ぜたりスパイスを使ったりと手を加えていましたが、こちらでは醤油や塩コショウでさっと味付けするだけ。素材自体が良いので、それだけでも十分美味しいんですよ。そのかわり、料理のレパートリーがめっきり減ってしまいましたけどね(笑)。また、みやま市は、周りがアスファルトばかりの都会とは違って、水田に囲まれています。そのため夏は思いのほか過ごしやすく、熱帯夜もほとんどないのが魅力です。

Q.福岡県に移住を考えている人にメッセージをお願いします。

移住するのは、新規就農支援などのサポートを受けやすい若いうちが良いかもしれません。私のようにある程度年齢を重ねてからは…いや、それでもなんとかなっていますね(笑)。幸いなことに、周りの方々に支えられています。住みたいと思っている土地で顔が広かったり仕事をたくさんもっていたりと、自分にとってのキーマンがいると心強いですよ。移住のポイントは、いきなり引っ越すのではなく、事前に何度か足を運んでおくことです。いろいろな地域を訪れて、自分に合っているかを確認。候補地が決まったら、あらかじめ地元のネットワークを作っておくと、充実した移住生活を送ることができるはずですよ。

※当インタビューは、2021年11月17日に行われたものです。

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