移住者インタビュー

LIFE STYLE 広川町

空や夕日、田園風景を眺めながら、ほっこり。自然豊かでパラダイスのようなこの町をもっと、住んでみたい、住んでよかったと思える場所にしたい。

移住者DATA

Iターン

山本誠さん

Profile
山本誠さん(42歳)
Work

地域商社経営

神奈川県出身。広川町で妻、7歳の息子と3人暮らし。京都でジュエリー制作・販売を行っていたが、子育てなど将来的な生活環境を見据えて、2017年に広川町へ。地域おこし協力隊として活動した後、2019年に地域商社のニュー・ヒロカワ合同会社を設立。移住希望者の相談や、広川町が運営する施設の管理業務を担っている。

子育てのことを考え、車の多い都会を離れることに。初めて広川町を訪れた時からすでに、“この街で生活していける”という確信がありました。

Q. 広川町に移住するまでの経緯を教えてください。

息子を幼稚園の年中組に入れようかというタイミングで、妻と今後の子育て環境について話し合いました。京都のような都会は車やバスが多く何かと心配なので、もう少し交通量の少ない場所で、のびのびと育てたいという思いが一致。生活のしやすい、ほどよい田舎に移住しようということになりました。当時はジュエリーの制作や販売の仕事をしていたのですが、ちょうど新たな環境で働きたいと考えていたところでした。移住先で同じ仕事を続けるという選択肢もありましたが、ビジネスとして成立する保証がないため、生活を安定させることを優先。したがって移住先は、家と仕事をセットで見つけられることが大前提でした。

さっそくインターネットで移住先を探していると、「ニッポン移住・交流ナビ JOIN」※というサイトで、各市町村が地域おこし協力隊を募集していることを知りました。地域おこし協力隊であれば仕事の心配はなく、住居面もある程度はフォローしてもらえると思い、情報を掘り下げてみることに。いくつか候補地が見つかった中で、もっとも魅力を感じたのが広川町でした。業務内容がファッションやデザインに関係していて、今までのクリエイティブな仕事内容に共通する部分が多かったんですよ。

※ニッポン移住・交流ナビ JOIN…一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN)が運営する、移住情報のポータルサイト。田舎暮らしの魅力や支援制度、仕事、空き家情報などが紹介されている。
https://www.iju-join.jp

Q. 広川町の情報はどのように収集しましたか?

当時は、広川町の情報がまだ少なかったため、インターネットで検索しても、詳しい生活情報がヒットしませんでした。マップで大まかな地理関係は把握できたものの、いまいちどのような街かわからないまま面接へ。すると交通の利便性や街の雰囲気がよく、地域の皆さんもとても親切でした。初めて訪れた時点で、“ここでなら生活していける”という確信がありました。

住宅に関しては、インターネットで気になる物件をいくつかピックアップして不動産屋へ。役場の方にも見てもらったおかげで、無事に一軒家を借りることができました。当時はまだ空き家が多くなく、あったとしても住めないままの状態でした。しかし今では、町が所有者と連携を図っているため、見つけやすくなったと思います。

Q. 移住するにあたり不安だったことや大変だったことはありましたか?

住人の入れ替わりが激しい都会では、引っ越しても隣の方と接する機会はありませんでした。ところが田舎の場合、その土地で生まれ育ってきた方が多く、そういった方々に受け入れてもらえるだろうかという不安がありました。実際は、地域おこし協力隊として“地域のために活動する”という名目で移住したこともあり、すぐに温かく迎えてもらえました。よく果物をおすそ分けしてもらっていて、時にはイノシシの肉や、生きた状態のスッポンをいただくことも。スッポンは自分で捌いて、鍋にしたり唐揚げにしたりすると、とっても美味しいんですよ。京都にいたままだったら、このような経験はまずしていなかったと思います。日常の中で非日常を感じながら、楽しく暮らしています。

少し大変だったのは、物件探しです。自分だけの問題である仕事とは違って、妻の要望も踏まえる必要がありました。妻は虫が苦手なので、できるだけ虫が出なさそうな物件を探したんですが、夏になるとどうしても虫はやって来るんですよね。今ではだいぶん慣れてきたようで、先日は、窓ガラスにいるヤモリが虫を食べている様子を、興味深そうに見ていました(笑)。

都会には、知らない子どもに声をかけづらい風潮が。しかしここでは、皆さんが積極的に声をかけてくれます。地域の方々に見守られ、安心して子育てができています。

Q. 移住してからの広川町の印象を教えてください。

時間の流れるスピードが、ちょうどよく感じられます。京都にいた頃は慌ただしくて、深夜に帰宅することも珍しくありませんでした。せっかくの休日も何かしていないと罪悪感があり、休んでいるのにストレスが溜まってしまうという状態でした。ところが広川町に来てからは、自分のペースで過ごせています。また、お昼に一時帰宅して妻と食事をするなど、よい意味でオン・オフがなくなりました。心にゆとりができたことで、空や夕日、田園風景、図鑑でしか見たことのなかった野鳥などを眺めながら、「きれいだな」としみじみ感じることも。そう考えると、パラダイスみたいな場所で生活していますね(笑)。

Q. 移住してよかったと思うことを教えてください。

息子と過ごす時間が増えたことです。近所を散歩したり蛍を見に行ったりして、自然を楽しんでいます。また、京都にいた頃は一緒にお風呂に入ることができませんでしたが、今は遅くとも19時には帰宅しているので可能になりました。まとまった時間がとれた日には、息子を連れて大川市や船小屋の温泉に出かけることもあります。町内には太原(たいばる)のイチョウ並木や、直径7mの巨大水車といった名所があり、さらに県外まで足を伸ばすと行楽地や温泉地がたくさんあります。気軽に観光気分に浸ることができるんですよ。

もちろん、子育てをするうえでもメリットを感じています。都会では人と人とがあまり干渉せず、子どもがいるからといって、通りかかった人が笑顔を見せてくれることはありませんでした。子どもたちも、「知らない人に声をかけてはいけない」と教えられているんですよね。しかし広川町では、「みんなで子どもたちに声をかけよう」という空気があります。もしも子どもがぐずついていると、周りの方が一緒になって面倒をみてくれるんですよ。地域全体で子育てをすることが、この街では普通なんですよね。おかげで息子もすっかり街に溶け込み、最近はこちらの方言を使うようになりました。家でたまに「〜しとっと?」と喋ることがあるのですが、僕と妻が関東の言葉を使っているので、言った後に恥ずかしそうにしています。多分、小学校では日常的に方言を使っていますね(笑)。

例年11月中旬〜下旬に見頃を迎える、太原地区のイチョウ並木。黄金色の絨毯に思わず目を奪われる。

太原(たいばる)のイチョウ | 広川町観光協会
https://www.hirokankou.org/taibaru-ichou2019/

逆瀬ゴットン館と水車の外観
逆瀬ゴットン館の内部の様子

ゆっくりと回る巨大水車。傍に建つ「逆瀬ゴットン館」では、水車動力を使った搗臼(つきうす)4基と挽臼(ひきうす)1基が稼働している。水車の近くで営業する「水車そば さかせ」は手打ちそばが名物で、そば粉は水車動力を使った挽臼で挽く。
http://www.town.hirokawa.fukuoka.jp/node_119/node_21099/node_23192

Q. 地域おこし協力隊ではどのような活動をされましたか?

移住した2017年は、広川町で地域おこし協力隊の制度が始まったばかりの頃でした。そのため、新たに立ち上がった「ひろかわ新編集」※をどういう内容にするかなど、まちづくりの根本的な部分から決めていきました。「ひろかわ新編集」とは、“広川町の魅力を再編集ではなく新たに編集する”という活動です。広川町は小さな街で、お店がたくさんあるわけでも城下町があるわけでもありません。私が移住した当時は、“久留米市近郊のベッドタウン”というイメージが強かったのではないでしょうか。そこで、ファッションデザイナーの方を招いてイベントを行ったり、減少傾向にある工芸作家の方にスポットを当てたりと、広川町のブランド力を高めるための取り組みを行いました。ほかにも、交流施設「Kibiru(キビル)」※の方向性を考えたり、ゲストハウス「Orige(オリゲ)」※の管理業務を始めたりもしました。

※ひろかわ新編集…広川町が取り組む地方再生のプロジェクト。
https://hirokawa-newedition.org

※Kibiru…地域の集会所をリノベーションして誕生した交流施設。職業用ミシンなど洋裁の設備が充実し、誰でも格安で利用できる。
https://hirokawa-newedition.org/kibiru/

※Orige…移住相談の窓口としても機能するゲストハウス。
https://hirokawa-newedition.org/orige/

Q. 現在の仕事について教えてください。

2019年にニュー・ヒロカワ合同会社を立ち上げて、引き続き「Kibiru」と「Orige」の管理業務を行っています。事務処理から「Orige」の宿泊受付、清掃など、いろいろな作業をしています。「Orige」では、広川町と連携して移住相談を行っているのですが、具体的にアドバイスできるなど、自身の移住経験を活かせています。また、「広川ワーキングステイ」という移住促進の企画も進めています。「Orige」に一定期間宿泊しながら地元の提携業者のもとで働いてもらうという内容で、“とりあえずこの街で働いてみよう”と気軽に利用できます。自分が少ない情報の中での移住となってしまったので、もっと移住の敷居を下げていきたいです。

2018年に、ものづくりの拠点として誕生した「Kibiru」。土曜日、日曜日でカフェも営業。
「Kibiru」のスタッフと地域おこし協力隊の皆さん。ワークショップやイベントの準備の真っ最中。

Q. 仕事でやりがいを感じるのはどんな時ですか?

移住相談に来た方が広川町に移り住むと、やはり嬉しいですね。なかには手芸などの創作活動を行なっている方もいて、そういった姿を見ると、これまでの活動が無駄ではなかったと実感します。というのも以前、個人的な活動として、使われなくなった畑を借りて自然農法に取り組んだことがあったんです。また、現在は糸を作るために綿花を栽培していて、ゆくゆくは藍染にも挑戦するつもりです。周りの方にとっては、“わざわざ大変なことをして…”というのが本音だと思います。確かに利益はまだ出ていませんが、何人かの方が興味を示してくれるようになりました。こういった取り組みで周りに、直接的ではないにしろ、何かしらの変化が起きていると本当に嬉しいです。

移住してきた方に「いいところでしょう?」と、自慢したくなるような街にしていきたい。

Q. 福岡県と広川町の魅力を教えてください。

福岡は流通が整っているので、九州各地から美味しい食材が集まります。交通の便もよく、繁華街の天神から福岡空港までは地下鉄であっという間。そして広川町も、移住相談で「どんな街ですか?」と尋ねられたら、迷わず「アクセスのよい街」と答えています。天神、福岡空港行きの高速バスが出ているので、関東や関西への移動もスムーズなんですよ。自然も豊かで、年間を通して美味しい果物を食べられます。都会に疲れた人に、ぜひ訪れてもらいたい場所です。

Q. これからこの街で、どんなふうに生活していきたいですか?

地元で当たり前だとされている自然や文化も、自分のような移住者にとってはすごく魅力的に感じるものです。“町の外で培った価値観”は、移住者ならではの強みではないでしょうか。そのような視点を大切にしながら、昔からある魅力を再発掘して形にすることこそが、自分が広川町にいる意義の一つだと自覚しています。たとえすぐに成果が得られなくても、ある程度長いスパンで活動を続ける必要があると感じています。

Q. 福岡県に移住を考えている人にメッセージをお願いします。

ふくおかよかとこ移住相談センターを経由して来町される場合、ある程度、広範囲で移住先を探している方が多いようです。久留米市やうきは市など筑後エリアで探す場合は、「Orige」を拠点にすると移動や宿泊費の負担を減らせますよ。広川町は田舎暮らしに憧れている方には最適です。ここに住居を構えて、周辺の街で仕事を見つけるという手段もありだと思います。

住む家に関しては、いろいろな要望があるでしょうが、すべてを満たそうとするとキリがありません。まずはどこかに住んでみて、しっかり調べてから理想の家に引っ越したほうが得策かもしれませんよ。移住先にも同じことが言え、移住する目的があるのは素晴らしいことですが、理想が高すぎるとなかなか先に進めません。まず移住してみて、自分に合わなかったら別の場所に移る。このくらいライトな気持ちで探してみてはいかがでしょうか。

※当インタビューは、2020年9月9日に行われたものです。

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