Uターン
- Profile
- 師岡知弘さん(48歳)
- Data
- 朝倉市出身。高校卒業後、大学進学のため鹿児島へ。就職後は、大阪や東京でIT系企業や製薬会社に勤め、2015年10月に朝倉市へUターン。現在は、朝倉市の嘱託職員の傍ら、「未来環境オフィス」という法人を立ち上げ、農業や土壌改良剤の生産など、自然の価値を見出す様々なことを行いながら、自然に寄り添う暮らしを実践している。
- Work
- 朝倉市嘱託職員、法人代表(農業・企画/マーケティングなど)
Q. 移住のきっかけを教えてください。
仕事の都合で東京や大阪に長く住んでいましたが、若い頃から「いずれは朝倉に帰りたい」という気持ちがありました。その気持ちを再確認したのが、2014年に参加したライフプランを考えるイベントで、周りを気にしながら生きることはやめて、本当に自分が感じたこと、したいことをしなければと考えるようになりました。
そこで行きついたのが、「水」もしくは「食」、生きるために必要なもの、農業でした。農業は体力も経験も必要です。その時は44歳で、少しでも早い方がいいと思い行動を始めました。休みを使って月に1度は帰省して実家の農業を手伝ったり、自然環境と共生する全国各地の農家を訪ねて話を聞いたりしましたね。
Q. 移住先として朝倉市を選んだのはなぜですか?
1年半くらい経った頃、母から「朝倉にも田んぼも空き家もあるよ」と連れてこられたのがここ、黒川地区でした。実家と同じ朝倉市ですが、この地区に来たのは、この時が初めて。来た瞬間に「ここだ」と体で感じました。山に囲まれていて田畑があり、集落もある。全国各地の農家を訪ねている時に、気に入ったところがあればそこに住んでもいいと思っていたのですが、こういうところが地元にあるならば、他を探す必要はないと思いました。母が地域おこしに関わっていたこともあり、地元の方を通して借りることのできる家や田んぼを紹介してもらい、移住しました。
Q. 農業の魅力について教えてください。
移住前は製薬会社に勤務していましたが、医療はあくまで「最終手段」であって、生活環境や食などを見直すことで、根本的な健康を目指すことができるのではないかと、ずっと考えていました。ただ、いいものを探していくと値段が高くなるし、なかなか行きわたらない。でも自分が生産者になれば価格も決められるし、必要なところへ届けられる。それで農業をやりたいと思いました。
Q. ご家族の反応はどうでしたか?
純粋に喜んでいました。ただ、実家に住むと思っていたようですが(笑)。それに76歳の父は地域の方々と共同で農業法人を営んでいるので、そこに私が入ると思っていたようです。ゆくゆくは考えようと思っていますが、今はこの黒川地区で農業をしたい。また、移住後に出会った方と今年結婚したことも、喜んでもらえましたね。私も彼女も山に関する問題意識を持っていて、そういう勉強会で出会いました。
Q. 現在の仕事について教えてください。
幸いなことに、移住した翌年から朝倉市の集落支援員の仕事に就くことができました。地域活性化と集落機能の維持を念頭に、地域を巡回し、住民のみなさんと関わりながら課題を見つけ、解決方法を提案・実行できるよう行政と連絡をとりあうのが主な業務。おかげで地域の方と関わる機会も増え、声をかけてもらいやすくなりました。一人暮らしの方も多いので、家の修理や畑仕事を手伝ったり、一緒にお茶を飲んだり。そういうところから少しずつ地域の方々と距離を縮めていっているところです。
そのほかに、農業や竹を使った土壌改良剤作りの仕事、平成29年九州北部豪雨による流木を薪にするプロジェクトなども行っています。自然豊かな場所なので、子どもたちに自然を感じてもらえるような保育園を作ったり、古民家で民宿をやったり、地域活性化につながるようなこともしたいですね。資源は豊富、仕事のタネはいくらでもあります。自分で仕事をつくるという気持ちがあれば、里山での暮らしも十分可能です。
Q. 移住先にはすぐなじめましたか?
同じ朝倉市とは言え、実家からは離れているので周りは知らない人ばかり。でも、不安に感じることはなかったですね。移住者の中には自分がやりたいことに没頭して、地域には最低限の関わりしか持たないという人もいると思いますが、私はそうではなく地域に溶け込みたいと思っていたので、住民票もすぐに移しました。地域の方々に対する「私はここで暮らしたい」という意思表示でした。地域の方ともすっかり顔なじみになったとはいえ、ここの住民になったかといわれると、まだまだだと思いますが、時間や生き方がそのうち解決してくれると思っています。
Q. 暮らしに不便を感じることはありませんか。
ここはもともと過疎化が進んでいた地域ですが、平成29年7月九州北部豪雨の影響でますます人が減っています。私も今は仮設住宅で暮らしています。借りていた家の被害は、2階の住居部分は雨漏りくらいでしたが、1階の倉庫は土砂で70~80cmくらい埋まりました。暮らすことはできないし、借家なので勝手に修理をすることもできない。なので、不便というか…今はこういう状況なのですが、この問題をどう解決するか、創意工夫するのが楽しいですね。私は不便さを楽しめる性分なんです。また元の地域で暮らしたいと思い、住むところを探しています。人が生きる環境という私の暮らしのベースはここなので。
Q. これからやっていきたいことを教えてください。
"大きい家"を作りたいと思っています。物理的に大きいだけではなく、いろんな人が帰って来られる家。これは、東京にいた時の児童養護施設出身の子どもとの出会いがきっかけなんです。帰るところがない子どもたちにとって、住む場所があり食べることができるということは、生きていく上で不安を取り除く最低条件だと思っています。そして、社会の中で生きていく上で人に必要とされる、愛されることは何より大事。人に喜んでもらえる仕事をして、自分の存在が認められるということを繰り返すことで、心の中の何かが変わり、生き方が見えてくるのではないかと思います。そういう場所をここに作りたい、血のつながりを超えた大きい家族を作っていきたい、というのが叶えたい夢の一つです。
Q. 移住を考えている方にメッセージをお願いします。
自分が何をしたいか。それが一番大切です。自分がしたいこと、求めることをはっきりさせて、それを実現させる場所を見つけるのが移住ではないでしょうか。その結果、私は山に来ました。ただし、もし私のような田舎での生活を考えているのであれば、その地域の中に溶け込める心の余裕が必要だと思います。特に田舎は大切にしてきた歴史や習わしがあります。それをすぐに否定してしまったりせずに、まずは理解しようと参加してみてはいかがでしょうか。地域の皆さんを大事に思っていれば、地域の皆さんが教え、助けてくれます。都市にはない自然、ゆとり、豊かさ、地域の人との人間関係を楽しめれば、田舎は人と自然と共に生きていることを実感できる最高の場所です。
※当インタビューは、2018年9月11日に行われたものです。
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