ボタ山に月が出た—昭和遺産の町・田川とその周辺を訪ねる—

~来てみらんばい、筑豊のど真ん中へ~

田川市 居住体験

光りあるうち光の中を歩め

カテゴリ:気づき 更新日:2015.12.11

昨日立て続けにかいたこの記事がフォーマットの不調で飛んでしまった。こういうことはよくあるーと言いたいところだが、それもだいぶ昔の話。最近のMacは滅多にフリーズしないし、ワープロソフトはどれも原稿を自動保存するので、大きな犠牲は被らない。
呆然とするうちに九州中を嵐が襲った。12月の台風。まるで映画のタイトルみたいだ。そして、作家の野坂昭如が亡くなったーとの報道。家にあった文庫版の『火垂るの墓・アメリカひじき』を中学時代に読み、背伸びして『エロ事師たち』など代表作を次々に読破した。当時、その擬古文体の影響をもろに受け、ぼくは大学時代に専攻もした江戸文学に開眼していく。野坂さんはとにかくよくテレビに出ていたので、子ども時分はタレントだと思っていた。が、それは持ち前のサービス精神の賜物。自由奔放でありながら、努めてストイックな面をいくつかの小説から感じた。思えば、ぼくに物書きの指針を示してくれた人だ。

プロなので失せてしまった記事を一字一句とは言わないが、ある程度性格に再現することはできる。が、それがイマイチだったからこういう結果になるのだーと自分に言い聞かせる。それにしても、ぼくはこんな風によく道に迷う。登山が趣味だし、ドライブも嫌いではないから読図能力はあると過信し、ズンズンと先へ進んでは結果、迷路の奥のほうに入り込んでしまう。そんな経験を田川でもした。

そう、ぼくは戸谷ケ岳という、標高702mの田川郡添田町、川崎町、嘉穂郡嘉穂町の境界の山にこちらに着いてほどなくして登った。山道にはその前の週末に川崎町主催のツアーもあったようで、しっかり足跡がついていた。正直、杉の植林帯がほとんどで視界は悪いが、急勾配が続き、登り出はある山だ。
本当は朝のうちから同じ田川郡でも福智町にある名山・英彦山に登ろうと思っていたのだが、雑務が溜まってそうもいかず、午後2時くらいからのスタート。だから軽い足慣らしのつもりで入った。そして、ガイドブックに確か3時間とある行程を40分ほどで登って下りてきた。
折からの雨で泥濘って滑る道をぐいぐいと駆け上がるのはちょっとした興奮。山頂まで出れば、期待通りの景観が広がった。

そこまではよかったのだ。時間は午後4時にはなっていたが、その近くに荒曾山という484mのさらに低山があり、川崎町ではパンフレットも作っている。山頂まで30分ほどだから、その往復だけでもできそうだー。
と欲をかいたのがいけなかった。以下の記録にもあるよう、登山口すら不明瞭なのに、あわよくば2時間ほどの周遊コースを一気に1時間ほどで駆け巡るイメージが沸いた。そして、ぼくはとりあえず高見を目指せば道にも出られると踏んで、藪漕ぎを始めてしまった。そして、その頂に立って愕然とした、三角点は付いてはいるがまったくの名もなき逆方向に立つ山。
顧みれば、戸谷ケ岳でも仕事道の木々に巻かれた道標のテープに導かれ、少し上のポイントから下りていた。かなりの急坂で、だからよけい早くに下りてこられたとも言えるが、低山にはこの種のリスクが多い。
途中、足下にはキラリと光る鉱石が…。この一帯も以前は鉱山があったという。それがなんらかの示唆だと気づいたのは後々だ。

時すでに日没。来た方角から下るのが筋だが、まだうっすら明るいので、すでに狂い出している方向感覚だけを頼りに、また先へと進んでしまったのが、延々4時間に及ぶ迷走の皮切りだった。
ヘッドライトは持っていたし、道さえわかれば歩けるーというのも、よくよく思い上がった話で、スマホのGPSもつながる場所とそうでない場所がある。月夜だったのがせめてもの救いで、何度も泥濘に足を取られ、素手だったので茨に傷めつけられた。
結局は元いた頂きに戻ると、GPSが最もしっかり機能し、自分と沢と車道の位置がつかめたので、一気に駆け下り、そこからは道も見えた。そして、それがさらにはっきりわかる高みにいっぺん上がって、コースを再確認し、また沢を徒渉し、アプローチに辿り着いた。

自分も傷だらけだったが、おニューのトレッキングシューズのお試しという目的もあったのに、もう使い物にならないかと思えるほど泥まみれ。なにより気がかりだったのが、転んで泥が詰まったiPhone(これがいよいよ無事下山という直前にバッテリーが事切れた)の充電口で、案の定、携帯充電器と接続しても、ジャリッと音がしてカチッとケーブルが入らない。
ともかく泥を完全に除去せねばならない。ぼく自身、まだその時間でも空いている温泉で汚れを洗い落とし、疲れを癒したかったが、そんなことは後回しだ。なぜならWi-Fi環境にない中、iPhoneこそがライフラインという生活を強いられているからだ。
どうすればいいか考えながら、車を市街へ走らせると、最初に目についたコンビニがあった。ベストマート? 聞いたことがないな。ローカルチェーンなのだろうか…。

店内を見渡すと、いやー、いろいろ変わった商品を置いています。地元密着の乳酸飲料「ヨーグルッペ」とかね。九州に来て、ここで初めて見た。それくらい大手コンビニの商品は画一化されているわけだ。ナショナルブランド以外は自社のプライベートブランドで占められており、こうした伝統的な商品の入り込む隙もなくなる。若者はその味を知らず育ち、やがて育った土地すら見捨てる。
ベストマートは九州北部一帯に8店舗を擁する独立系チェーンで、そのうちの1軒がこの「ベストマートこがや」だった。ここでぼくはアルバイト店員2名に大いに助けられた。iPhoneのピンチを伝え、復旧作業に必要な物はなにか尋ねると、一人がITに明るいらしく、充電口を覗き込み「まだだいぶ詰まってますね」といろいろアドバイスをしてくれた。

そこでぼくはちょっと乱暴だが、楊枝をもらって泥を掘り出すことに。ティッシュとアルコールも借りて、極細の即席綿棒を作って悪戦苦闘を店の片隅で約30分繰り広げた。ドリップコーヒーを買ったが、さぞや迷惑だったろう。
そして、ようやく除去完了、通電再開。大げさでなく、青函トンネル貫通という気分だった。お礼に南日本酪農の「生乳たっぷりバナナ」、馬郡蒲鉾の「ミンチ天」など九州独自の商品も購入。家に戻って、しみじみと味わった。

にしてもだ。トルストイの短編の題ではないが、登山の鉄則は『光りあるうち光の中を歩め』。この時ほど身に沁みたことはない。そしてまた、人の情けも…。ただ、ぼくが時に迷妄の闇に紛れ込むのも、その明るさを感じたいからなのかもしれないーとも思った。

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